マルセイユ・タロットの伝統
いわゆるマルセイユ版の「マルセイユ」とは、あくまでもタロットの一定のスタイルを指すことばであり、あの地中海沿岸のマルセイユ地方産を意味するわけではありません。
代表的な作者にはフランス北部・パリのジーン・ノブレ(1650年頃)、南東部・リヨンのジーン・ドダル(1701年頃)、やはり南東部・アヴィニイヨンのジーン・ピエール・ペイアン(1713年)、中部・ディジョンのピエール・マドニエなど、当初はフランス一帯にマルセイユ版のメイカーが点在していたのです。
そんな中で、マルセイユ地方で活躍したニコラス・コンバー(1760年)のタロットが注目され社会現象となったことが、一連のメイカーが輩出した一定の絵柄のタロットに「マルセイユ版」という呼称が与えられるに至ったのでしょう。その後、1800年代に入ってからはスペインにおいても「マルセイユ版」が発祥しています。
今日国内で出回っているマルセイユ版タロットのパッケージには、英語表記でTarots of Marseilleとなっている場合と、Tarots of Marseillesとなる場合とがあり、これについて、マルセイユ版にも異なる種別があることの表れであるという説がありましたが、後者のようにマルセイユに複数形がつく場合は、もともとスペイン語で表記されたマルセイユ”Marsella” が「マルセイユの」と所有格的に英語に訳される際に起こる現象であるとのこと。
現在となっては、タロット発祥の場によらず、一定の絵柄のスタイルを指して「マルセイユ版」と名づけられていることが明確になっているため、「マルセイユ版」としての表記を統一したり、マルセイユ・スタイル・タロットと表現するようにするのもひとつの方法ではないかという指摘・提唱もあります。
ヨーロッパで最古のタロットが確認されているのが1300年代~現存するものは、1400年代で、それらはすべて手描きの作品、多くはテンペラ画です。以来、ヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷技術の発明により、印刷が急速に広まり、当時の印刷物の大半が活版印刷による版画作品と化していきます。
この頃、推定1370年頃には西洋社会にゲームカード(いわゆる後のトランプ)が中東より流入し、宮廷を筆頭に上流貴族たちの間で大流行!紙製カードの文化が盛り上がります。